トップページ >>取組事例・実績>> コンサルタントコラム

コンサルタントコラム

2016年6月1日

◆ 過去にとらわれていないか ◆


弊社顧客企業で実施された3日間の合宿型新任管理職研修の最終日でのこと。
「それでは、昨晩から今朝にかけての『気付き』を1人ずつ発表してください」
私が参加者に発言を求めると、八木さん(34歳・女性・仮名)は「人生の中でこんなに笑ったことはなかった。おかげで腹筋が痛いです。」と発表された。

昨晩は参加者同士、どこかの部屋に集まり、きっと遅くまでたくさんのことを語り合ったのだろうと、私は想像した。

この研修は、新任管理職に昇格されて半年から1年前後の方々を対象に「企業理念を体言していくリーダーになる」ことを目的に、定期的に開催されている研修である。

研修では、その手法として360°サーベイを用いて、上司・同僚・部下から見た「その人の強み、弱み」等のコメントを集め、そこから研修参加者の「現状の価値観(パラダイム)」を導き出し、その後に「パラダイムチェンジ」を図る。

八木さんに関しては、そのサーベイのコメントが150個近く集まっていた。
コメントから窺えたのは、仕事に対する八木さんの姿勢は「まじめ」を通り越して「超まじめ」。
強みとされた「物事を追求する姿勢」に関しては、誰もが一目を置く人物であることが見て取れた。

一方、弱みのコメントから窺えるのは、周囲と人間関係を作っていくのは苦手。
もともと人見知りの性格の上、対人関係の仕事を避けてきた八木さんは、現在の職場でも、必要最低限の仕事上のコミュニケーションを取るのみであった。

サーベイの「弱み」コメントには
「相談しづらい」
「好き嫌いがある」
さらには、「誰のことも信用していないと思う」
「八木さんのもとで働きたいとか、ついていきたいとは思わない」という、本人にとっては胸を抉られるようなコメントが書いてあった。

私からしてみると、この課題がクリアできない限り、新任とはいえ管理職として、この先本人も部下の方々も、お互いの人間関係はもちろん、業務を遂行していくうえで、様々な障害が生じてくるだろう、と思わずにいられなかった。

研修が始まり、八木さん自身がサーベイコメントを基に自己分析を行うと、「信じられるのは自分だけ(裏切られるのが怖い)」という現状のパラダイムがあることに、自分自身で気づかれた。

その現状のパラダイムが生まれた背景を、八木さんからじっくり話を聞いてみたところ、「過去に人に裏切られた(と本人は思っている)」という経験をしたことが、決定的なきっかけになっていることが浮かび上がった。

そもそも「現状のパラダイム」というのは、本人が生きていくために作った「安全装置」のようなもの。
人は傷ついた場合に、二度と同じ傷を受けないように、心にセーフティーガードを張ることで、同じように傷つかなくなるようにする。
そういうものが自然に発動するのだ。

八木さんはその装置を元に、その一件以来、周囲の人たちを
「自分にとって安全な人」
「自分にとって害を及ぼす人」
の2種類に分類していたようだ。

しかし、この研修で、私や他の研修参加者との対話を通じて、本当に大切なことは、「自分が相手をどう見ていたかではなく、相手が自分をどう見ていたか」が、部下を持つこれからの八木さんにとって、大事なことであることに気づき始める。

「自分で思っている自分と、周囲が思っている自分は異なる」
周りから見る八木さんは、
「一生懸命だけど、どこかとっつきにくい人」
「相手ができないと、すぐに見放してしまう人」
コメントという他者の目を通して、八木さんは
「自分が傷つかないようにしていた結果、相手を傷つけていた」
ことに気づいた。
自分を守ることに集中するあまり、相手も自分と同じ「人」であること、「気持ち」や「感情」があることに気づけていなかったのだ。

「申し訳ないことをしている」

八木さんのスイッチが切り替わった瞬間である。

「相手は歩み寄ってきてくれている」
「自分が勝手に壁を作っていたんだ」
「なんだ、相手にもっと気軽に相談してもいいんだ」
「もっと相手の面倒も見てあげなくては」
申し訳なさと嬉しさで、八木さんの涙はしばらく止まらなかった。

こうして、自分自身で作っていた壁を取り除いた八木さんは、この研修の場での他の参加者への関わりも変わっていった。

自己開示をし、相手の感情を考えて発言する。
そのような彼女の変化が、さらに他の参加者の変化を促す。

「今の自分」を作ったのは「過去の自分」かも知れないが、「今の自分」が「未来の自分」を作る。

研修を通して、私自身も過去に縛られていないか、自分に問いただしてみた。

八木さんの新しいパラダイム
「相手の気持ちを感じる」が実践され続け、良きリーダーとなられることを私は期待してやまない。

株式会社フェイス総合研究所 上席執行役員 針生 英貴