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コンサルタントコラム

2016年8月31日

◆ 行き過ぎた「自己犠牲」 ◆


先日、東京都内に2店舗を展開するホール企業A社の「幹部合宿研修」での一場面。
店長代理であり、古参社員の一人・川上さん(仮名)への周囲からのアドバイス・メッセージには、
「仕事を一人で抱えており、いつ川上さんが潰れてしまわないかと、心配している」
「どんな人からの依頼も断らず、すべてを自分でやってしまう。時として周囲が川上さんに甘えてしまっている」
「休みの日に出勤し、他の担当者の仕事のフォローをしている」
「自己犠牲が過ぎていて、心配になる」
などの言葉が見受けられた。

そんな川上さんの仕事に対するパラダイム(物の見方、世界観)を深掘って行くと、
「相手に嫌な顔をされるのが嫌」
「場の空気を乱すのが嫌」
「人の言いなりになっている方が人間関係が崩れずに済むので、その方が楽」
という言葉が川上さんの口からこぼれる。

しかし、川上さんはこの『サンドバック』のような状況に本当に満足しているのかというと、
「最近は仕事に追われっぱなしで、精神的にもちょっと苦しくなってきた」
このように、決して川上さんは今の状態に納得しているわけではなく、
要するに
『周りと揉めるぐらいなら、自分が我慢した方がマシ』
と、辛抱しているだけ。

このまま川上さんが今の仕事スタイルを続けていくと、早晩、限界が来て、体を壊すとか病気になるとか、そういうネガティブな状況に陥ってしまうのは明白だ。

何より川上さんの問題には、組織として大きな問題もある。
川上さんと同じ班で研修を受講していただいていた、上司である店長の杉田さん(仮名)も、「川上さんに依頼しておくと、すべてをセーフティーに完結してくれるので、本当に助かる。つい、他のメンバーに頼まず、川上さんを頼ってしまっていた」
との反省の弁が聞かれた。

もちろん、部下の方々も多くの方が川上さんの仕事ぶりに『頼る』というよりも『依存』しており、特に直下の部下である主任の二人の成長が他店舗の主任と比べても、鈍ってしまっているという。

そう、上司が働き過ぎることで、部下が成長する機会を奪っている、のである。
これは大きな問題である。
例え、川上さんが今の状況を凌げたとして、もし、川上さんが店舗を異動した場合やケガなどで入院を余儀なくされた場合など、後任の担当者や残された店のスタッフたちが、たちまち困ることになることは必至だ。
業務が一人の人間に偏ってしまうということは、そういうリスクを伴う。

本当に店舗運営を安全に、安定して行うためには、厳しいようだが川上さんの我慢は、決して組織にとってプラスとは言えないと、私は川上さんの『これまでの考え方』を一刀両断した。

会社経営というのは『継続性』・『存続性』というものが重視される。
一過性やその場凌ぎ、付け焼刃というのは、本当に拙い状況だと考えるべきである(もちろん、各企業において、時と場合によっては『瞬発力』を持って、課題を克服すべき時もあるにはあるが・・・)。

ある角度から見れば、献身的にチームに貢献する川上さんの姿は美徳にも見える。
しかし、行き過ぎた『自己犠牲』がもたらすものは、お互いが甘え合う『相互依存』という悪手になりかねない。

何より川上さん自身が『やりがいで頑張っている』のではなく、『我慢で頑張っている』わけだから、それは大きなストレスとなるだろう。

それでも川上さんは、
「今までずっと受身で、何でも『はい、はい』と聞いていた私が、急に厳しい態度を取ってしまうと、部下から嫌われませんかね?」
と、まだ不安を口にする。

その言葉を聞いていた杉田店長が、
「川上さんがこれまでに貯蓄した『信頼ポイント』はすごく大きいと感じている。そんな川上さんが部下に対して堂々と強い態度に出ても、部下は決して川上さんへの信頼を下げることはないと思う。これからはドンドン部下に仕事を振って行って欲しい」
とアドバイス。

それを聞いた川上さんに、ようやく安堵の表情が戻る。
『優しさ』と『易しさ』を勘違いしない幹部が、しなやかで強い組織を作る。

A社の本店は、これから彼らの目標である『繁盛店』に大きく近づくに違いない。

株式会社フェイス総合研究所 上席執行役員 四宮 敬仁